三日目の正直

週明けの月曜日のことです。入社三日目の定時を過ぎた辺りに社長が自分の席までやってきて「会議室で一緒に呑みませんか?」と。
いつもにこやかな社長なのですが、更ににこやかな表情でした。仕事の途中ではありましたが、社長とはほとんど話をしたことも無かったので尻尾を振って会議室へ。

皆さん忙しそうで、社長と営業部長と自分の三人だけの一種の歓迎会でした。
本郷のこの近辺、学生時代から好きで散歩コースだったんですよ。特に漱石の作品に登場する場所を確かめに伺ったりしていたんです。
そんな挨拶を自分が始めると、社長はかなり驚いていて。その話題で盛り上げ掛けたところで「ちょっと待ってて」と何かの書籍をコピー機に読み込ませていました。

社長は業界紙にコラムを掲載するほど、漱石の話題が大好きだそうで、そのコラムを何ページもコピーされていて。
三四郎の歩いた場所や登場した女性、他にも坊ちゃんや「こころ」の話題で大いに盛り上がり。
こんな話題で盛り上がれるのは久し振りで、自分もかなり嬉しかったのですが、社長はそれ以上に幸せそうでした。

お酒の勢いも手伝ってか、会社の実情も聴けました。
「ここはブラック企業なんですよ」と唐突に。
既にソレっぽい噂は聴いていましたし、社内の雰囲気でも十分に伝わっていました。そのブラック度が何処までなのか?を日々確認していたりの自分でもあり。
しかし、社長直々にそれを表明するのも凄いものです。
何とかしたいのだけど、どうにも出来ないと認められている部分もあるのかと。

会長の言動が過激過ぎる様です。
多くの社員が会長からクビにされたそうです。今時、そんなのは裁判沙汰になるのですが、実際に裁判にもなったそうです。
入社一日目で本人から辞めた社員も数知れずだそうです。最短レコードは半日、午後には居なかったそうです。
後から知ったのですが、人の出入が激し過ぎて歓迎会も正式に出来なくなったそうで。

どうしてそうなってしまったか、まともに綴ると長くなるのですが。
手短にまとめると、中規模の会社を経営していた会長はその会社の売却益で数十億円の個人資産を握った。そのお金で弱っていた会社を実質買い取った。
弱っていた会社はまともな事業をしていたものの、赤字体質で借金も雪だるまだった。
まずは借金を返済し、会長の手腕で売れそうな商品の販売権を持ち込み、結果的に去年は黒字化出来た。
しかし、その間に入れ替わった社員は無数に居た。

会社というのは赤字体質のままだと、何時かは消えてしまう存在です。
その点では基本に戻ったと云えます。

80歳の会長はコンピューターなどほとんど扱えず、IT系については素人というよりも誤解が相当多い様です。
職場には業務フローや手順書といった類が残されておらず、入社時に渡されたのは座席表と組織図だけ。今後の説明も無し。
ただ、漠然と「技術の管理をしろ!」との会長の弁。自分の上には部長が二人居るのですが、「こいつらは当てにならないので、今後はお前に任す!」と皆の前で(製品管理の意味合いで、技術の総まとめでは無いハズなのですが)。

しかし、具体的に何から手を付ければ良いのか。とりあえず、製品分類表や大まかな業務フロー図、関連企業の立ち位置等をまとめてみたり。
技術の修理や点検といった実務も忙しそうな状況だったので手伝ってみたかったのですが、上記で非難された二人の部長は「いまそれをやっては危ない」との弁。
要は「会長の指示したことを優先してやるべき」の中に実作業は含まれていないという認識でした。
なので、今後のOJTにも使えそうな業務フロー図等を優先して作るようにしていたのですが、会長はそれさえも否定。
「パソコンばかり触って実務を知らなきゃ、そんなのお前の備忘録にしかならない!」と大怒り。
何割かはその通りの指摘ですが、本来あるべきものが無いワケで、実際に明文化されていないから個々の担当の認識も違っていたり、それによるトラブルも発生しているワケで。
実際、各担当に確認しながら描いたフロー図も、担当によって認識が違ったり。業務の中でも本来やるべき管理がスッポリ抜けている部分も診えてきたりでした。
逆に、会長から実務作業も指示されたので、周りも自分も動きやすくなって「渡しに舟」とも思っています。

話を戻して会議室での小さな歓迎会に。
社長曰く「初日に会長からあんな指示をされたら、二人の部長も警戒しちゃうよなぁ」と。確かにその通りです。会長の指示通りに自分が動いてしまえば、部長の顔を潰しかねません。
何も知らない新人に何かを教えるのも面倒な作業になってしまいます。実際、こちらから聴かない限り何も教えてくれない雰囲気でした。
聴けば答えてくれるのですが、スタンスがそもそも何か妙で。
まずは現状の流れを知らないと何も始まりません。地図も無いのに交通整理など出来るワケも無く。無理して交通整理をしたら交通渋滞どころか事故だらけで。

来月、自分の部署に自分より若い女性が転職してくるそうです。具体的に何を任せるのかは誰も分からない様子です。
上記で作成した資料が少しでも役に立てばなぁと思っているのですが。

転職が多い自分、いまでも繋がりのある過去の同僚は、一緒に余程の苦楽を共にしたとか、趣味や興味の対象が一致した方ばかりです。僅かな友人として残っています。
社長もその一人になりそうな感です。

ただ、自分だけが怒鳴られているワケでも無く。全社員、ほぼ満遍なく怒鳴られています。
経験の無い事態ですが、個人攻撃で無い点で「虐め」とも別っぽく。会長本人も「怒鳴るのが」趣味との弁。
そこで理路整然とした議論が出来れば解決策もありそうなのですが、どうにも聴く耳を持っていない様子で。
過去の自分は、誰かが誤解されて怒られていたりすると、助け舟を出す性格でした。見て見ぬフリは後悔してしまうし、出来るものなら自分がそうなった時に誰かから助け舟を出してほしいというのもあって。
それが誰も出来ない雰囲気というのが、一番の問題なのかなぁと。
その舟を出した側もクビになるらしく。

具体的な名称は全て避けて綴ったつもりですが、かなりディープな話題なので、後日非公開にする記事かと思います。

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